KSAT3-X

KSAT3-Xは,金沢大学先端宇宙理工学研究センター(ARC-SAT)による,技術実証衛星計画です.質量2~3kgの2Uキューブサットを用いて,将来の金大科学観測衛星に必要な技術や新しいアイディアの軌道上実験をします.また,ARC-SATの事業の柱の一つである「人材育成」を継続的に進めるため,学生やスタッフが開発,管理する割合を高くし,衛星システムに対する理解を深めます.自分たちで管理する割合を増やすことは,一部を変更しなければならなくなったときにも迅速に対応できるようになると期待されます.

KSAT3-X 2U Cube-sat Concept Design

背景

人工衛星は,人工衛星本体とそれを運用するための地上システムからなり,衛星本体だけでもいくつもの搭載機器で構成される複雑なシステムです.一度宇宙に行ってしまえば,衛星システムが故障や不具合を起こしたとき修理することができません.また,宇宙用として市販されている機器は高価なものが多く,予算の都合でフライト用の1つしか買えないことも少なくありません.複雑なシステムがさまざまな条件のもと確実に動作するように,また地上にいる間高価な搭載装置を壊さないように,開発作業ではさまざまな試験項目や細かな作業手順があります.一つひとつの作業に時間がかかってしまい,衛星1機の開発に何年もの時間がかかってしまいます.一方,多くの学生は4年生から博士前期課程(修士課程)までの3年間しか開発に参加できないため,1人の学生が人工衛星の計画から開発,運用まですべてを経験することは,金沢大学でもできていませんでした.

また,システムの複雑さは,部分的な変更を難しくします.社会では様々な分野で新しい技術が毎日生み出されています.また,衛星を開発する中で気づく改善点もあります.しかし,微妙なバランスの上に成り立つ衛星システムは,開発が進むほど途中で一部を変更することが難しくなります.せっかくいいアイディアを思いついたとしても,何年も後回しになったり,お蔵入りしてしまうことは珍しくありません. KSAT3-X計画は,このような状況を改善するために,発案されました.

KSAT3-Xのコンセプト:3つのX

KSAT3-X計画には,学生が衛星開発の最初から最後まで経験できるように,また研究者の自由な発想を形にできるように,「3つのX」からなるコンセプトがあります.

eXperience(経験)

学生1人1人が設計開発の最初から最後まで経験します.また,KSAT3-Xシステムの中でARC-SATで開発,管理する割合を高くし,衛星システムに対する理解度を高めます.

eXperiment(実験)

この衛星を用いて新しい技術,アイディアにチャレンジします.実績不足で宇宙で使うには不安な技術や装置をあらかじめ宇宙で実験することで,科学衛星や実用衛星に新しい技術やアイディアを適用しやすくします.実験内容はARC-SAT考案のものだけではなく,金沢大学内外のアイディアを受け付けられるようにします.

eXpress(迅速)

アイディアから実験実施までを短期間(2~2.5年が目標)で行います.将来的には「金大 発 地球低軌道 行 定期便」となることが目標です.

KSAT3-X衛星

KSAT3-X衛星は2Uキューブサットを基本とします.2Uキューブサットは10cm✕10cm✕22.7cm,質量2.66 kgの直方体形状で,金沢大学で開発する衛星としては最小となります.しかし,搭載機器は衛星としての機能を備えています.バス部(オンボードコンピュータ,姿勢制御部,電源制御部)で内部容積の大部分を占めます.しかし,小さいながらも余りのスペースを作ることができる見込みで,ここをミッション部として提供します(図の赤色半透明部分).ミッション機器がこのスペースに収まるように,ミッションを計画します.これは,金大衛星だけでなく広く一般の衛星が,ミッションが成立するようにバス部を含めた衛星システム全体を設計するのとは逆のアプローチになります.号機間のバス部の設計変更をなるべく少なくすることで,1機のKSAT3-X衛星開発にかかる手間を減らし,開発期間を短くします.

KSAT3-X 2U Cube-sat Exterior
KSAT3-X 衛星の外観(想像図)
KSAT3-X 2U Cube-sat Interior
KSAT3-X 衛星の内部(想像図)

KSAT3-Xの衛星搭載システムは,コマンド・データハンドリング部(C&DH),電源制御部(EPS),姿勢推定・制御部(ADC),ミッション部(Mission)と,構造からなります.電子機器であるC&DH,EPS,ADC,Missionはそれぞれマイコン(MCU)を持つ,分散型アーキテクチャとします.各部のMCUは共通とし,各部の担当者(学生・スタッフ)が開発ノウハウを共有しやすくすることで,短期間のうちに多くの経験を積み重ねられることを目標とします.

KSAT3-X System Architecture Concept
KSAT3-X システムの構成

KSAT3-X01号機計画:Coming soon

2025年5月現在,ミッションの実現性を検討中です.公表までもうしばらくお待ち下さい.

2025年度の開発計画

KSAT3-Xバスの開発:各部のブレッドボードモデル(BBM)を開発し,机上で衛星システムを作り上げます.BBMとは,衛星に搭載する電子機器のうち,実際に衛星に組み込む前の試作品のことです.大きさなどの制約を気にせず試行錯誤して,衛星と同等のシステムを作ります.こうして実際に動く電子機器の試作品をベースに,衛星に載せられるサイズに改良していきます.