太陽地球系科学部門

太陽地球系科学部門では、地球近傍プラズマ空間をはじめ、太陽風や惑星周辺等のプラズマ電磁環境を解明し、その物理過程を理解することを目標に研究を行っています。具体的には、

(1)プラズマ波動の計測および科学解析を実現する先進的な観測機器の開発

(2)宇宙空間で観測した電磁場計測データを、最新の信号処理技術で解析する手法の開発

を行い、それらを駆使して、

(3)ミクロな波動-粒子相互作用の物理素過程から、グローバルなプラズマ電磁環境まで、

幅広いサイエンスアウトプットを得るための研究

を推進しています。

これまで当研究部門に所属するメンバーは「あけぼの」「Geotail」「のぞみ」「かぐや」などの歴代の科学衛星に搭載されたプラズマ波動観測器の開発およびデータ解析に30年近く貢献してきました。これらの知見を活用して、現在は、地球内部磁気圏探査衛星「あらせ」搭載のプラズマ波動および電場観測器(PWE)、日欧合同ミッションである水星探査計画BepiColomboミッションの一翼を担う水星磁気圏探査衛星「みお」に搭載されたプラズマ波動観測器(PWI)には、当該グループが開発を担当した磁界センサや、観測データの機上処理や観測機器を制御するオンボードソフトウェアを搭載して、機器の運用と取得データの解析を行っています。

また、地上観測網の整備においても、名古屋大学宇宙地球環境研究所(ISEE)が主導する地上多地点観測ネットワーク整備事業(PWING)等に参画し、北半球オーロラ領域にVLF/ELF帯の自然電磁波観測網の整備とそのデータ解析に貢献しています。

これらの機器開発やデータ解析・研究は、JAXA宇宙科学研究所・東北大学・京都大学・名古屋大学など、国内の研究グループに加え、チェコ科学アカデミー・アイオワ大学・ミネソタ大学・フランス国立科学研究センター・パリ天文台など、数多くの国外の研究グループと共同開発・研究を積極的に展開しており、数多くの科学成果を創出しています。

「あらせ」衛星やさまざまな科学衛星を利用して地球内部磁気圏の未知のプラズマ波動を研究しています。
(Credit: ERG Science Team)

Pc1波動の振幅変調領域に関する研究

地上で観測される地磁気脈動の一種であるPc1波動は、2~3分程度の周期でパール構造という特徴的な振幅変調を有することが知られています。しかし、その振幅変調は磁気圏起源と電離圏起源の両方が提唱されています。本研究では、同じ磁力線でつながる北極域と南極域の観測所で観測されたPc1波動とプロトンオーロラ現象を用いて、Pc1波動の振幅変調領域を調査しました。その結果、地上で観測されるPc1波動の振幅変調領域は、関連するオーロラ現象による電離圏電流の変調により2次的に誘導されて発生する電離圏起源を提唱しました。さらなる検証のために、英国南極調査局との協力により、新しいオーロラカメラ観測を2020年より開始しています。

波動粒子相互作用発生域に関する研究

孤立コーラス波動によって発生する電離圏のフラッシュオーロラの空間変化を用いて、磁気圏の波動粒子相互作用発生域の磁力線垂直方向の非対称性を明らかにしました。また、その要因が孤立コーラス波動の伝搬特性によって生じていることを数値計算により明らかにしました。この数値計算モデルと電離圏のフラッシュオーロラの時間変化を用いて、波動粒子相互作用発生域における孤立コーラス波動の諸特性を推定する研究を進めています。

多地点観測を活用したプラズマ波動の三次元観測

日本の科学衛星「あらせ」、米国の科学衛星「Van Allen Probes」、日本の地上観測網「PWINGネットワーク」、カナダの地上観測網「CARISMA磁力計ネットワーク」の4拠点を組み合わせ、地球磁気圏で発生する電磁イオンサイクロトロン波が緯度方向に伝搬する様子を同地多地点観測することに成功しました。従来の1拠点観測では、プラズマ波動現象がどこで生まれ、どのように空間を伝わっていくかといった三次元的な描像を解明することが困難でした。本研究によって、電磁イオンサイクロトロン波が宇宙から地上に伝わる経路を同定し、その経路上で電磁イオンサイクロトロン波によるプラズマ加熱が生じている様子も捉えられました。本成果は、広い宇宙空間でプラズマ波動現象が三次元的に広がる仕組みや、宇宙環境変動が様々な場所で同時に起きる仕組みの理解に貢献できると考えています。

広い宇宙空間で起きる謎に満ちたプラズマ波動現象を理解するために、さまざまな科学衛星を使って多地点で観測を進めています。
(Credit: ERG Science Team)

プラズマ波動観測データの精密較正手法の立案

地球磁気圏で観測されるプラズマ波動現象を精密計測するために、プラズマ波動・電場観測器を開発し、ジオスペース探査衛星「あらせ」に搭載して運用しています。開発したプラズマ波動観測器は、機上ソフトウェアによる知的信号処理を実装することで、従来の科学衛星と比較して精密かつ多彩な科学データを取得できる工夫を施しています。2019~2021年度は、知的信号処理の一つとして観測器に搭載した「電界アンテナインピーダンス測定機能」のデータ分析を進め、周辺プラズマ環境の変化に依存する電界アンテナインピーダンスの定量評価を実施しました。これによって、電界観測結果に表れる振幅と位相の不確定性を正しく較正し、観測精度を飛躍的に向上させることに成功しました。これは、将来ミッションでの新型電界アンテナによる電界精密計測や、電磁界計6成分のフル3D観測の実現に向けた重要な成果といえます。現在、更なる高精度較正に向けて、アンテナの各軸について独立にアンテナインピーダンス計測を行う機能の検討を進めています。

プラズマ波動・電場観測器を開発し、それをジオスペース探査衛星「あらせ」に搭載しています。
(Credit: ERG Science Team)

水星磁気圏探査機「みお」によるスイングバイ観測

水星磁気圏探査機「みお」は2025年末の水星周回軌道投入に向けて、惑星間空間を航行しています。2019~2021年度に実施した地球・金星・水星における減速スイングバイに合わせて、プラズマ波動・電場観測器などによる科学観測を実施しました。機器の健全性と観測データ較正に必要な情報を得ることに成功したとともに、スイングバイ中に自然プラズマ波動の可能性が高い信号が観測され、その詳細解析を現在も進めています。

将来ミッションに向けたセンサおよび受信器のASIC化に関する研究

将来の小型衛星、超小型衛星の搭載を見据えて、電気特性を維持しながら放射線耐性と小型化を図るためにASIC(application specific integrated circuit, 特定用途での集積回路)開発の研究を進めています。特に、サーチコイル磁力計のセンサ部を放射線シールドとして活用するASICプリアンプ内蔵型サーチコイル磁力計を新たに開発しました。また、波形受信器用のフロントエンドASICの改良を行い、ダイナミックレンジの向上、温度補償回路を組み込むことで動作温度耐性の向上に成功しました。さらなる低ノイズ化を図るために、チョッパー方式ASICプリアンプの開発を進めています。

将来ミッションに向けた受信器ディジタル部のFPGA化に関する研究

「あらせ」や「みお」などの従来の観測器では、機上に搭載したCPUが観測した電磁波データを収集・加工し、地上伝送するテレメトリデータを生成しています。しかし、取得可能な観測データ量に比べ、地上伝送できるテレメトリの容量は極めて小さいため、衛星上で、スペクトル解析や電磁波の伝搬方向推定用のキーパラメータの抽出、テレメトリデータの圧縮・選別処理などを行う必要があります。しかし機上搭載CPUの計算能力の制約上、リアルタイム処理が不可能なため、間欠的に取得したごく一部のデータしか処理できません。そこで従来はA4版の基板サイズを占めていた受信器の主要なディジタル信号処理を、プログラマブル論理素子であるFPGAにパッケージ化し、(a) 受信器の大幅な小型・軽量化と (b) 観測データの連続実時間処理という2つの目標の同時実現を目指しています。